金と銀の魔法使い
前世と、そして、現世と。
繋がる鎖は、お互いをがんじがらめにして。
「……久し振りだね、ティンブラ」
天井の高い、城のホール。
ふっと笑う銀色の少年に、金色青年の体は強張った。
少年の名はアリア。青年の名はティンブラ。
それは、背中合わせに立つ二人。
「やぁ、アリア。……また、何かあったのかい?」
君の国は、魔法を信じないんだろう?
ティンブラは皮肉るようにそう言って、アリアに笑いかけた。
「君に、会いに来たんじゃないか!」
「……へぇ。……そう」
「嬉しいでしょう? ティンブラ?」
「……とても」
両手を広げるアリアに、ティンブラが半歩後退る。
ティンブラは肩を竦めると、アリアを見やった。
一回りぐらい違う、小さな少年。
銀色の、魔法使い。
他国からは、それが普通の魔法使いと思われているらしい、三角帽子。
膝も隠してしまうほど長い、マント。
手には、少し長めの杖。
「嬉しく、なさそうだね」
「……」
「せっかく、運命共同体が会いに来てるのに」
「……気に入らないなら、殺せばいいじゃない。簡単だろう?」
ふっとティンブラが笑うと、その頬をアリアの杖が掠めた。
つぅ……と、頬を伝う赤。
それを気にする様子もなく、ティンブラはアリアから視線を逸らした。
「僕はまだ、死ぬ気はないから」
むしろ、君を死なせるわけにはいかない。
アリアは小さく、そう呟いた。
アリアは、ティンブラの命を握っていて。
ティンブラとアリアの命は、繋がっていて。
――それは前世の、お互いに掛けた呪い。
「大丈夫。僕は命に、執着しないから」
「そりゃ怖いね」
ティンブラが微笑むと、アリアも微笑む。
ティンブラは嘲るような笑顔を浮かべると、アリアの胸倉を掴んだ。
「君の命は、僕が握ってるんだよ? ティンブラ」
「でも、今の君は、僕を殺せない」
それは、果てしなく続く攻防。
ティンブラの手が離れると、アリアは乱れた服を直し、埃を払い落とすような仕草をした。
それを見て、腕を組むティンブラ。
「今日の所は帰って貰えるかな」
「ふふ、言うようになったね。ティンブラ」
――ずーっと、死を怖れ、怯えていたのに。
くすくすと、アリアが笑う。
くるりと方向転換をし、背を向けるアリアに、ティンブラが睨みの視線を送る。
アリアはその視線に気づいているのか、出口に向かいながら、そっと口の端を吊り上げ、笑みを浮かべた。
「絶対に、許さない。まだ、許せない」
ティンブラの言葉に、アリアは背中越しに手を振った。
「いいよ、許さなくて。恨みは、闇の力を呼び起こす」
「いつか君を倒して、仲間の呪いを解く。……絶対」
「やってみなよ」
ティンブラの言葉に、アリアが顔だけ振り返る。
彼はにやりと笑うと、また出口の方を向いて、歩き出した。
アリアの靴音だけが、ホールに響く。
『自分みたいな人は、出したくないから……。正義の道を』
『世界が壊れれば、きっと、幸せになれるから。偉大な、力を』
それは、幼い頃の約束。
前世での、約束。
一緒に、幸せになろうね。