永世の魔法使い


 ずっとずっと前の記憶が、蘇る。
 それは果てしなく昔。
 けれども、今自分の住んでいる村は、そこにあって。



「懐かしいな……」



 写真立てに飾られた、もう色褪せた写真。
 ……もう一枚だけになってしまった、魔法を使わずに撮った写真。魔法の力で、ここまで残ることが出来た写真。
 そこには、姫と、王子と。……それから、一人の魔法使い。


 色褪せる前は、白髪の美しい魔法使い。


「……昔は、白かったんだっけ」
 思わず、笑みが零れる。
 もう、あれから何百年、何千年と経って。
 ……写真の中の姫と王子は、この世にいない。
 居たとしても、それは、彼らの生まれ変わり。

「二人は……そう、とても仲が良かった」

 二人を思い出せば、自然と笑みが零れた。
 名前も、しっかりと思い出せる。声も、笑顔も、鮮明に思い出せる。
「……他の人たちは、どうしてるだろうか……」





 遠い昔に、思いを馳せて。

 ――最後の約束を、思い出す。








「ちゃんと……守ってるよ」



 写真に話しかけると、中にいる二人が笑った気がした。
 手を取り合って写る姫と王子。
 二人はリュッカにとって一番の仲間であり、親友であり、家族でもあった。


「あぁ……。会いたい……な」


 ふと口に出すと、その思いは途端に大きくなった。
 どんどん大きくなるその感情に、ふと、リュッカはその頬を濡らした。



 あいたい。

 アイタイ。

 会いたい。


 叶うなら、もう一度会いたい。



「レイ、命。……まだ、私は生きているよ」
 手で頬を擦ると、指が濡れた。
 リュッカはそれを舐め取ると、写真立てを元の位置に戻した。
 それから、玄関へ向かって歩き出す。





「こんにちは、リュッカ」





「……こんにちは。マリア」
 扉を開けた途端に、少女の声。
 リュッカは少女の顔を見ると、笑顔を浮かべた。
 ……それは、先ほどと変わらない笑顔で。
「あれ……。リュッカ、泣いてたの……?」
「少しだけ、ね」
「……」
 一生懸命背伸びをして、届かない手を伸ばしてくるマリア。
「大丈夫だよ。……泣かないで」
「マリア……」
「私が、居るから。……ね?」
 にこりと笑う、マリア。
 そっと、彼女に視線を送って。


「……うん」


 満足そうな、マリアを見て。
 リュッカはそれから、微笑んで頷いた。





 まだまだ続く、遠い昔からの約束を胸に。