Another I -兄弟-
―――まだ見たことのない兄がいる。
それが、いつの間にか自分の心に闇を落としていたのだろうか。
話によると、その兄は、自分とは歳が10近く離れているという。
自分が生まれる前にアメリカへと飛んでいってしまった兄を、
自分は、一体どう思っているのか…よく、分からなかった。
「…兄さんが帰ってくる?」
突然聞かされた言葉に、少年は顔をしかめ…。
しかし、内心ではとても驚いていた。
…兄が、帰ってくる?
見たこともない、今では家族なのかとさえ思えてしまう兄。
自分の中でぐるぐると回る何かに、彼は吐き気さえも覚えた。
「…サイアク」
「便利になったもんだな」
昔がどうとかは知らないけれど。
自分が生きている時間で、確実に世界が変化しているのが目に見えて分かった。
…今自分が持っている紙袋に入っている物も、その1つだったりするのだが。
そして、ちらりとそれに視線を走らせると同時に、
彼の頭に一足先に日本へと旅だった少女の顔が浮かぶ。
「…ゲームの中で会おうぜ、“ブラックシュガー”ちゃん」
―――ほら、狂ったゲームの始まりだ。
ふと、にぃと笑って歩き出した彼の服から、ひらりと一枚の写真が落ちた。
「あ」と声を漏らし、慌ててそれを拾う彼。
その写真には、むっすりとした表情を浮かべる、
微かに焦げ茶色にも見える黒髪をした、10歳前後の少年が写ってた。
「……ユウ、ねぇ…」
実感湧かないな。彼は呟くように言ってから、
自嘲気味に笑顔を作り、写真をポケットに突っ込んだ。
まずは、そこには何もなくて。
だから、何かを作り出すのはとても大変で。
けれど、壊れるのは簡単で。
亀裂が入り、溝ができ、埋まらないほど深い深いモノが生まれる。
「貴方を、兄さんだとは思わないから」
「これから弟と思えだなんて」
―――無理だから。
だから、修復なんて不可能でしょう?
end