Another I -起動-
「あら…?」
そこにいたのは、真っ黒い髪に黒衣を着た青年。
それから、まるで金糸のような髪に真っ白い衣装を着た女性だった。
「…何だか、楽しくなりそうじゃなくて?」
二人を見てくすりと笑うと、緑の女性は姿を消した。
「ごめんごめーん!メイプルちゃんただいま登場でっす!」
「おっそいぞー。少女よ」
「いやー、準備に手間取っ…てえぇっ!?誰この人!?」
「…私の、アメリカでの友人よ。メイプルシュガー」
よぅ。と手を振り挨拶をする青年。
彼を見て呆れたように長い息を吐くと、
背の高い金髪の女性はゆったりと、長いふわふわした髪を揺らし、首を振った。
「どうしても、一緒に行動したいというから」
「だーいじょうぶ。俺様、足手まといにはならないからさ!」
「ブラックシュガー!」
「…無駄よ、メイプル。この人、しぶといから」
どんと胸を叩く青年に、女性が額を押さえる。
同じく、少女も、肩を竦めて彼をじとと見た。
「それにしても、良くできた世界だ」
「…で、おじさん誰よ」
「お兄さん!」
「……」
青年はふんと鼻を鳴らし少女を見ると、その額に指を突きつけた。
真っ黒な瞳が、彼女に向けられる。
「俺は、クロウ。この世界一番の、魔法使いだ」
「……へぇ、ほぉ、ふーん?」
「…なんだよ」
「ま、始まったばかりだしねー。魔法使いさえいるのかどうか!」
名乗った彼に向かって、見下すような視線で少女。
彼女は顔をしかめたクロウを見てから、にぃと笑った。
「ちなみに、僕も少女じゃないよ。メイプルシュガーだからね」
少女の手が、彼に突き出される。
まぁ、仕方ないか。そういうように、彼はその手を取った。
「私は、エラピスと申しますわ」
「は!また何か出た!!」
「“何か”とは失礼ですわ」
「…またやっかいな…」
いつの間にやら。
ブラックシュガーの後ろに、緑の女性。
…いや、その髪の色は、光加減によって青にも見えるような気がする。
彼女は腕を組んで怒るような仕草をしてから、こちらへと歩み寄ってきた。
近づけば近づくほど、その美貌には驚かされる。
「………女?」
「……でしょ?」
「………だと、思うけど…」
「失礼ですわね!!私、女に決まってるでしょう!?」
…が、言葉使いとはどこかマッチしない…。
男とも女とも取れる中性的な声。
真っ平らとも言えよう、その胸。
「貴方方、私を馬鹿にしていますのね?」
「いや、悪い悪い。とてつもないべっぴんさんだったから」
「あら、分かれば宜しいんですのよ」
くすくすと、女性が笑った。
足下をすくう風に、彼女のロングスカートと、その下のズボンが揺れる。
―――短剣か?
ズボンの下にちらりと見えたのは、彼女の使用する武器だろうか。
足に、剣の鞘と思われるものがくくりつけられていた。
「私、ご一緒しても宜しいかしら?」
「………は?」
「だって、皆さんのこと気に入ってしまったんですもの」
「あー、エラピスさん?」
すでに、言葉もないのだろうか。
ブラックシュガーとメイプルシュガーは、呆然と二人のやりとりを見ていた。
それをちらりと確認してから、クロウがエラピスを見やる。
「危険だぜ?」
「百の承知ですわ。……だって、メンバーがメンバーでしょう?」
「は…?」
「さー、さくさく行きますわよ!」
勝手に話を進め勝手に盛り上がるエラピス。
彼女の後ろでお互いを見やると、3人は肩を竦めた。
―――また、やっかいなモノに出会ったもんだ。
end