Another I -威圧-





「そろそろ、テストの期間も終わりだな」

「えぇ…」
「そうしたら、一般化するんですわね。…何だか、しっくりきませんわ」
最近は、どうにも3人で行動することが多くなっていた。
きっと、この期間が終われば、最終的には全員が離ればなれになるのだろうが。
「エレクトラさん、来なくなっちゃいましたわね」
「ん。なんか、色々と忙しいんだと」
「メイプルさんも」
「…メイプルは、友達に引っ張られてるとか…」
基本武器が槍、短剣、杖。
そんなメンバーでどうしろと?と、言いたい。
3人は揃って溜息を吐くと、地面を見下ろした。
ざらりとした砂が、風に吹かれて連れ去られていく。



「とりあえず、どっか行こうぜ。手頃なところ」



「そうですわね。悩んでいても仕方がないですわ!ファイト!」
「…それじゃあ、初心者向けのところへ?」
「さすがにそれは、弱すぎますわ…」
んもぅ。と声を上げるエラピスに、ブラックシュガーはくすくすと笑った。
少し珍しいその光景に、クロウがきょとりとする。
…風が、今度は二人の長い髪を揺らした。
「でも、3人で行動するのも、こう時間をかければかけるほど、慣れるよなー」
「そうですわね。もう、違和感を感じなくなってきましたわ」
「ゲームの時間は、現実の時間より長いから」



―――ゲームとリアルを混同してはいけないわ。



ブラックシュガーがゆったりと首を振る。
その動作を見終わってから、エラピスはむぅと唇を尖らせた。
「まぁ、そうですけれど」

―――結局、これもまた現実。

エラピスはそう言い終わってから、
段々と辺りが静けさを増してきたのに気づいた。
太陽が、目で見ていて分かるほど、段々と沈んでいく。
「…町へ戻りましょうか」
同じく、思案から引き戻されたブラックシュガーが告げた。
彼女の隣では、クロウが目を細め、夕陽を見ている。



「本当に、良くできてるよな」



まるで、現実だ。
彼はそうひと言言ってから、歩き始めた。
…マントが、ばさりと音を立てて揺れた。



「それにしても…」

「…?」
「最近クロウさん、『本当に、良くできてるよな』が口癖になってません?」
「……えぇ…」
ベッドに座ると、ふわりとした感触が感じられた。
温かみさえも、感じられる。


「貴方方、リアルでお知り合いでしたわよね?」


「…えぇ」
「ということは、クロウさんもこのゲームに関わっていますの?」
「……」
答えがないことに、やっぱり…とその話を自己完結させると、
エラピスはベッドに寝転がった。
ふわりと、毛布が体を包み込む。
「まぁ、深く追及はしませんわ。なんたって私は一般人!」





「私は、貴方のことを知りたいわ」





「…あら。それはプロポーズですの?」
うふふと笑う彼女の表情が、一瞬固まった。
それを見逃さなかったブラックシュガーが、ふぅと息を吐く。

「貴方は、何者?」

「何と言われても、私は一般人ですわ。さ、寝ますわよ!」
「それじゃあ、納得いかない」
「…それでも、私は一般人ですわ」
エラピスは、そういうと、
ベッドの上で体を起こし、ブラックシュガーに微笑みかけた。
少し首が傾けられ、それに従ってさらりと髪が揺れる。

「もし何者かであっても、私は私ですわ」

「………」
「満足しました?」
「…少し、安心したわ」
ぽすりと、ブラックシュガーの体が毛布に包まれる。
次の瞬間、そこから規則正しい寝息が聞こえ始めた。
それに安堵するような息を吐いてから、エラピスが苦笑を漏らす。

「そりゃ、疲れますわよね」

ゲーム内ぐらいでは寝なくては。彼女はそういってから、
ブラックシュガーと同じように毛布に身を包み、目を閉じた。





end