Another I -鋭利-





 また、一緒に冒険できると良いねと。
 君は、笑った。


「で、どこに向かってるんだ?」

「あー、別に、アテもなく」
「……ちょっとは考えて歩こうぜ」
「同感」
 赤い髪の少女は、杖抱えてにこにこ笑ってて。
 先頭を歩く黒の男に突っかかる狐の少年と、
 その少し後ろで、黒い男をじろりと睨み付ける金色の少年。
「なー? リーズちゃん? アテなくたって、どうにかなるって」
「そうですよーぅ。どうにかなるのです!」
「……この馬鹿達どうにかしてくれ……」
「なんか、二人になると止められないよね」
 既に諦めモードの金色の少年を見やると、狐の少年は頭を抱えた。


 ゲーム時間で言えば、つい昨日の夜だった。
 こんな少しの時間でうち解けるなんて……と思うほど、
 うち解けるまでにそう時間はかからなかった。

「まぁさ、目的ないんだし。ゆっくりやろうぜ」

 おそらく、この男、クロウのせいなのだろうが。
 それと、その隣の少女。リージスティのせいでもあるだろう。
「目的ねぇ。……何か、作るの?」
「いや、作っても、このメンバーじゃなぁ」
「だよね。……まぁ、地道にやるしかないよね」
「お二人は、プロなのー?」
 クロウと、金色の少年……エレクトラがリージスティを挟んで話すと、
 予想通りというか、リージスティが口を挟んだ。
 ちなみに、それをじとと見ている狐の少年は、狐炎。
「プロ?」
「はは、プロか。……まぁ、上級者ではあるかもな」
「……それなりに、長いことやってるしね」
 クロウがくくと笑い、エレクトラも少し微笑み。
 まるでその様は、昔の記憶に思いを馳せている様だった。


「もちろん、私のことはまだ覚えていらっしゃいますわよね?」


「……」
「…………」
 そして、その表情は……。
 とある人物によって、一瞬で崩された。



「私、エラピスと申しますわ」

 にっこにっこと微笑むその人物は、性別さえも定かではなかった。
 それにしても、惹かれたのは、その髪だ。
 光加減によって、緑、緑青、青緑、青……と、色々な色に変わって見える。
 腰の下辺りまで伸ばされたそれは、優雅に風で揺れていた。
「……エラピスさん?」
「つか、なんでこの二人固まってるんだよ」
「ふふ、久々の再会で、きっと、感動しているんですわ」
 まるで、語尾にハートマークでも付きそうな勢いだった。
 彼女の服装は、歴史の教科書でよく目に付きそうな、古代ローマ辺りの様な服。
「お知り合いですかぁ?」
「えぇ、知り合いも知り合い、大知り合いですわ!」
「大知り合いですかぁ!」
「……おまえは、突っ込むということをしらんのか」
 また厄介なのと出会ったな……と、頭の隅で思ってから、
 狐炎はちらとエレクトラとクロウを見た。
 エレクトラは既に固まるのからは復活したようで、
 なんだか訳の分からないことをぶつぶつと言っていた。
 かと思えば、クロウはまだ固まったまま。

「クロウさん、そろそろ復活なされてはいかが?」

 ふふ、と、エラピスと名乗った人物は微笑んだ。
「……エラ、久し振りだね……」
「そうですわねー。でも、それ程久し振りではありませんわ」
「あぁ……うん……そうだっけ?」
 あはは、と、苦笑じみた笑いを、エレクトラは浮かべた。
 それに構わず、エラピスはゆったりとクロウに近づいていく。



「ク・ロ・ウ・さんっ」



「おぉ、よぉ、エラピス。久し振りだな!」
「きゃ。いつ見ても、格好いいですわー」
「はは、そうかぁ? エラピスも綺麗だぜー?」
 つんと額をつつかれたクロウは、すぐに意識を取り戻したようで。
 ……ただ、その台詞は、棒読みだった。
「なんか……俺、あの人苦手っぽいわ……」
「あの人、相手を自分のペースに巻き込むのが上手いから」
 リーズは別っぽいよな。
 そう言って少女をちらりと見てから、狐の少年は大きく溜め息を吐いた。


「ほう、リーズさんと狐炎さんですわね」
「えぇ、そうですのー」
「軽くうつってるよ、リーズちゃん」
 ほほほ、と、エラピスは笑った。
 いまだに、リージスティも狐炎も、エラピスの性別さえ分からずにいた。
「で、今度はこの方々とパーティーを組んでるんですの?」
「ま、まぁ……な」
「そろそろ視線を合わせて下さいまし」
 その辺の木陰に座って、休憩中。
 エラピスも交えて、彼らはちょっとした談話を楽しんでいた。
 エラピスはついとクロウの視線の先に移動すると、
 にっこりと彼に向かって微笑んだ。
「で、この子達と一緒に彼女探しですの?」
「いや、探しってわけでもないし……。……彼女って?」
「とぼけないで下さいまし」


 ――ブラックシュガーさん。


 クロウの耳元に息がかかり、彼の肩がびくりと震えた。
 それを見て、またふふと笑うエラピス。

「そうそう、あれ。……あれでも、男だから」

「……えぇ!?」
「反応遅いよ、リーズ」
「あら、エレクトラさん、私女ですわよー」
 おほほとエラピスが笑うと、
 エレクトラはどこがだよといって、ぷいとそっぽを向いてしまった。

「それで、ものは相談ですの」

「はぁいー?」
 そんなエレクトラをちらりと見てから、
 エラピスはがしっとリージスティの肩を掴んだ。
 ふと、クロウが止めようとし、エレクトラもびくりと反応し、
 狐炎も嫌な予感が……と、表情を曇らせる。



「私も、ご一緒してよろしいかしら? パーティー」



「おぉ! エラちゃんも来てくれるですか!?」
「待て待て待て! それ拒否して、リーズちゃん!」
「もちろんですよー!」
 リージスティの言葉にほっとするや、すぐ、
 クロウはその顔を青ざめさせる事となった。

「人数は多い方が、楽しいですよねっ」

 にぱっと笑った彼女に、勝てる者はいなかった。




 さぁ、五人になって、再出発です。









end